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2004年4月22日 (木)

情けない夜

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 彼女を見かけたのは、自分が文無しだと気が付き、手ぶらでコンビニを出たときだった。道の向かいの生垣に顔を突っ込んだまま動かないうら若き女性。もう午前二時を回っていた。
 …その夜は新宿三丁目から二丁目へと友人たちとハシゴし、久しぶりに記憶を失うまで飲んでしまった。常連となっている渋いバーで大騒ぎしてしまった友人が、もうあの店には入れないんじゃないの、と、何度も私に謝っていたことは覚えている。
 「お客さん起きてください」
 と、タクシーの運転手に起こされたのは、赤坂TBS前交差点だった。自分が帰るところはなんとか運転手に伝えたらしい。午前二時近くだというのに、まだポツリポツリと人が歩いている。
 料金を支払う段になって財布を探すがどこにもない。二件目の店で支払ったときに財布を取り出したところまでは覚えているが、それ以降の記憶がない。かろうじて小銭入れがあったのでジャラ銭をすべて渡し、残りはここに請求してよ、申し訳ない、と名刺を渡してタクシーを降りたのだった。水がほしいな、とコンビニに入ったのだが…。
 「大丈夫ですか?」
 と、彼女の背中から声をかけると、
 「う~ん…」
 と、唸って起き上がった彼女は、私をキッと睨むと、立ち上がってフラフラと坂を登って行った。そんなに敵意をむきだしにしなくても…。それほど余裕のない世界にいるのか、と悲しくなる。
 「すいません」
 と、謝った自分もバカみたいだった。「女性はか弱い存在だから助けなきゃいかんぞ」という親の教えが染み付いているのだろう。放っておけばいいものを、つい声をかけてしまう。自分でもため息がでる。
 やはり気になったので、少し離れて後を追っていくと、彼女はなんとも私と同じマンションに入っていくではないか。エレベータに乗るのが見えたので安心したが、すぐにはマンションに入るのがはばかられ、コンビニへ戻ることにした。コンビニに着いて、自分が文無しだったことに気が付き、笑ってしまった。私も相当に酔っていたらしい。
 それにしても、セクハラとかストーカーとかドメスティック・バイオレンスとか、そんなカタカナ言葉の世界の中で虐(しいた)げられている女性は気の毒だ。“慈しみ”の心を持っている大和の男たちもカタカナ言葉にビクついている。本当の男なら、恥を忍べ。
 自分の部屋に戻ると、紛失した財布に入っていたクレジットカードの会社に電話をかけまくる。無効手続きが終わったときは、もう午前三時近くだった。それまでに何度かトイレに走り込む。鏡に映る自分の顔が情けなく見えた夜だった。
 マルガリータをやめて髪を伸ばし、若づくりして爪先立って生きていこうとすると、ときどき醜い我欲が顔に表れてしまう。「アクセス・ナイン」とつぶやいて無垢な心を取り戻せないのなら、いっそのこと、白髪まじりのひげを伸ばし、ジジイとなって枯れてしまえ。

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