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2009年4月10日 (金)

母恋し

両親に頬をひっぱたかれたことは一度もない。そのかわり、「言うこと聞かぬ大バカ者め」と、何度となく叔父や叔母にひっぱたかれた。私の周りには教育係がたくさんいた。そして、ちょっといけない遊びもこっそり教わった。そんな中でも最も危ない遊びを教わり、頻繁にひっぱたかれた叔母が、エイプリル・フールの日に逝った。十二人いた父方の兄弟姉妹たちは、これで、私の産湯を沸かしてくれ叔母一人だけとなってしまった。

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遺影を抱える従姉妹は妹みたいなもの。ただ、そばにいるだけで、なんとも言いようがなかった。

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叔母の葬儀が終わり、兄が守る実家の二階で寝そべっていたときのことだ。そこには両親の遺影がある。その写真を眺めていたら、どうしようもなく腹がたってしまった。これまで何度も眺めていて気にはなっていたのだが、その稚拙なフォトレタッチにもう我慢ならなくなってしまったのだ。

いて当たり前の人が、一人、また一人、とその場から去っていく。そのことを、今回の葬儀で実感した。遺影をつくった時の事情を話せる人がいなくなったら、母のことをよく知らぬ人にとっては、そのしょうもない写真が母の実態になってしまう。「そ、それは、許せない!」 急に腹が立ってしまった原因は、そこにあった。

「あの遺影だけどさ、かあちゃんと違うやろが。やり直そうよ。俺がやるからさ」と、兄に相談すると、苦笑しながらも承諾してくれた。東京の自宅に戻るとき、「一週間で戻すから」と約束し、ほこりが被ったアルバムの中から5冊ほど持ち帰ってきた。

持ち帰ったアルバムは、たまたま母の写真ばかりだった。母が記した覚書もあちらこちらに残っている。アルバムのページをめくっていると、アルバムを置いた台の上がざらつく。長いこと押し込められてた時の塊が弾け、独特の匂いを発する。

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色あせた写真眩し母恋し。

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2009年4月 1日 (水)

スーツの日

今日はお堅い客人が事務所に来る。

何を着ようか、と洋服ダンスをのぞいてみると、奥のほうに仕舞い込まれたベイカー・ストリートのスーツに目がとまった。クリーニングタグがついたままの冬物のスリーピース・スーツ。

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着てみると、腰周りがきつい。とはいえ、腰をまっすぐに立て、お腹をへこますと、ズボンのフックが見事に止まった。「オオッ」と声が出てにが笑い。胸周りも肩周りも少しきつ目だが、ベストと上着は無理なくはおれる。空手で体をかなり絞り込んできたので、もしかしたら……と期待したが、それでもやはり、ちょっと無理がある。とはいえ、着れないことはない。

その昔、会社を立ち上げたばかりの頃、シャレでひと月に一度、社員全員がスーツを着て会食をする日を決めていた。当時のスタッフたちは、ライターとかイラストレーターとかデザイナーがほとんどで、普段はスーツとは無縁の者たちばかり。ひと月に一度の「スーツの日」は、みな朝からニヤニヤしていた。男たちは無精ひげをそり、女たちは丹念にメークしていた。その日ばかりは会食するお店での扱いもちょっと違っていたような気がする。そんな恒例の記念日に、このスーツは着た覚えがない。すでに少し太ってしまっていたからだ。もう二十年ほど前の話だ。

午後、銀行の担当者たちが事務所に来たとき、私はクリーニングタグを取ったそのスーツを着て応対した。用件はうまく進んだ気がするのだが、どうだろう。彼らが去った後、いったいあのクリーニングタグはいつ頃、どこに住んでいたときに付けられたものなのか、急に気になり、いったん捨てた薄紫色の小さなタグを探すべく、ごみ箱をあさった。

…今となってはネクタイを締めることなどほとんどないのに、どうしちゃったんでしょ。ホッチキスが付いたタグは見つかったのですが、タグに書かれていたのは、ボールペンで走り書きされた私の名前だけでした。

(追記)トラッド一筋でボタンダウンのシャツしか持っていなかった頃は、ホントに痩せてました。若かったしね。このスーツを着たのは週明け月曜日。前日の日曜日の稽古で汗が出なくなるほど絞られた翌日だから、なんとか着ることができたんですよね。午前10時から6時間、昼食なしの稽古って、記憶をなくすほどの疲労感があります。そんな日曜日なのに、週末に向けてブクブクになってしまう自分の甘さが悲しいです。何もスリムになったことを自慢しているわけじゃありません。私は元々そんなに太る体質ではないので、スリムボディに強い願望はありませんから。ただ、もっと絞らないと、蹴り足が高く上がらなくて無様なんですよね。

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