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2009年9月23日 (水)

捨てられぬ名刺

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毎年のことだが、カレンダーができてくるこの時期に住所録を整理する。いただいた名刺は住所録データベースに入力すると、破棄するのが習いだ。とはいえ、捨てられぬ名刺がどうしてもある。この1枚もそうだ。

山下氏とじっくり話をしたのは一度きりしかない。経済評論家、荻原博子氏が提唱する節約術がパソコンを使えば簡単にできる、という本を同社から出版するための企画会議の席だった。荻原氏ご本人はそのときは出席しておらず、担当編集者と山下氏、執筆担当者の鈴木と私の4名だけ、という小じんまりした会議。どのような本にするか、どう進めるか、当面の話はすぐに終わった。

『荻原博子のパソコン使っておいしい節約』
荻原博子・鈴木眞里子 著
1999年11月11日初版発行、インプレス

山下氏が企画した「できる!シリーズ」の原型は、製品マニュアルの世界には既に存在していたし、ただ、市販される書籍にあの形式を持ち込んだのは、山下氏が初めてだったですよねえ、という思い出話をすると、そこから会議は思わぬ方向に進んだ。

1990年代初頭は、まだDTP技術が十分には進んでおらず、あのフォーマットを版下作業で組むには非常に手間がかかるため、誰も手を出したがらなかったとも言える。たとえば、「できる!シリーズ」より2年ほど前、1993年の春に出版された『カ・ン・タ・ン OS/2』という本がある。「できる!シリーズ」と似たようなフォーマットで制作されている。

私はその基本フォーマット作りと編集を手伝っただけだが、その制作は非常に手間のかかるものであった。A社制作スタッフたちが作業する工程を見てよく知っている。この本は日本IBMから出版された市販されることを前提に書かれた製品マニュアル本で、その年、業界のマニュアルコンテストで「年間最優秀マニュアル」という評価を受けた。当時はまだバブル崩壊前で、企画から執筆・編集・制作に至るまで、潤沢な予算と人材を確保できた時代でもあった。面白いフォーマットで制作されたマニュアルはほかにもいくつかある。この本はOS/2の消滅と共に業界からも市場からも消え去った。

『カ・ン・タ・ン OS/2』
日本アイ・ビー・エム株式会社
1993年4月24日初版第1刷発行
執筆 製品情報設計・開発
基本設計 グエル
編集制作 阿部写真印刷編集部

そんな昔話が一通り終わると、これからどんな本を作っていきたいか、という新しい企画のブレストが始まったのである。次はこんな本、あんな本を作りたいですね、という楽しい会議だった。それは1999年の春。十年前の話だ、山下氏からいただいた名刺には、「書籍統轄編集部 編集長」という肩書。その年の暮れ近くまで出版は延びたが、なんとか出版までこぎつけた。

この本が出版される前、彼は別の部署に配属され、いろいろあってなかなか連絡が取れず、次の企画を出せないまま日が過ぎた。そして、その翌年の夏、友人K氏から彼の訃報を受け取った。山下憲治氏、享年34歳(1965~2000年)。

この人の名刺は捨てられない。住所録データベースからも彼の項目を削除することはできない。今でも彼のウェブページはインプレスのウェブページに残されたままだ。

「Ken's Home Page」
http://home.impress.co.jp/staff/ken/

捨てられぬ名刺を一枚一枚繰りながら、そんなことを思い出すのも、この季節の習いとなっている。

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コメント

ウルウルweep

投稿: ロバパン | 2009年9月23日 (水) 21時23分

ロバパンどの
彼との付き合いは、あなたのほうが強かったですね。
本当におしい人を亡くしたものです。

投稿: kawa | 2009年9月24日 (木) 01時54分

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