« 贈る悩み、贈る楽しみ | トップページ | 伊東豊雄GAギャラリートーク »

2009年11月28日 (土)

DIS+COVERサイエンス創刊発表&記念講演会

2009_11_28_5158c
<初めて訪れた白亜の「科学技術館」>

カラリと晴れ渡った週末の午後、九段下にある「科学技術館」で開かれた講演会に出席した。講演者は北澤宏一氏。独立行政法人科学技術振興機構(JST)の理事長である。日本の科学技術を牽引する巨大な組織のトップ。演題は「科学技術が日本を救う」という壮大なもの。この講演は一冊の本としてまとめられ、版元である「ディスカヴァー・トゥエンティワン」より「DIS+COVERサイエンス」シリーズの創刊第一巻として来春早々に出版される予定だ。

講演:DIS+COVERサイエンス創刊発表&記念講演会、
講演者:北澤宏一氏(独立行政法人科学技術振興機構 理事長)
開催日:2009年11月28日(土)
時間:13:00〜18:00(開場12:30)
会場:科学技術館 第3会議室
〒102-0091東京都千代田区北の丸公園2-1 科学技術館6F
主催:ディスカヴァー・トゥエンティワン

講演に先立ち、社長である干場氏より創刊への熱い思いが語られた。凝縮すると、シリーズのキャッチコピーである次の言葉に集約されるだろう。

 科学っておもしろい!
 技術ってスゴイ!
 理系ってステキ!

さて、本論の講演だが、予定より早い午後1時半から始まり、予定より少しずれ込んだ午後6時過ぎまで続いた。休憩をはさみ五時間ほどに及ぶ長丁場。つい居眠りしてしまう者がいてもおかしくはないが、出席者たちはみな最後まで熱心に話を聞き入っていた。

それは、出席者たちの問題意識の高さや、講演の組み立てや内容の面白さにもよるが、大きな要因は話し手の話術にあったのではないかと思う。北澤氏の語りはゆったりとしたリズム感があり心地よく、具体的な事例から一般化を導く論旨の展開は説得力があった。また、不明なことは知らぬと言い、事実と意見を明確に区別する姿勢、組織人としての威厳とお茶目な性格が混じり合っていることも、聴衆を惹きつけた要因だ。研究者として、組織人として、プレゼンテーターとして超一流であることは、私が判断するまでもないだろう。

講演の冒頭で、超電導素材の研究開発によって時代の寵児となったことへの自負を語るのだが、単なる自慢に留めるのでなく、メディアや政治などに翻弄されるべきでない科学者のあるべき姿へと一般化し、現在話題となっているiPS細胞や自然免疫などの研究開発への議論へといつの間にか転じてしまうその立ち位置に、私はいきなり魅了されてしまった。

この講演で北澤氏が言いたかったことは何かというと、つまり創刊第一巻で述べようとしていることは、科学技術は広い視野で捉えれば非常に刺激的で夢のある世界であり、若者たちよ、その素晴らしい世界に飛び込んで来なさい、ということだ。

まだ科学の世界では門外漢である私にとって最もありがたかったことは、現時点での日本の科学技術が置かれている現状と問題点を、具体的な数値と事例を使って理解させてくれたことだ。たとえば:

・科学の世界に二番はない。
・遠いターゲットを定めることは政治も科学技術にも重要なこと。
・オバマ大統領は話がうまい。最終的には同じ削減幅であっても長期的な目標を核廃絶と定めた上での削減と、単なる削減では意味が違って見える。
・失われた90年代の閉塞感から抜け出すために、科学技術が重要だという機運が生まれ、「科学技術基本法」が平成7年11月15日に施行された。
・日本の研究開発費(政府負担・民間支出含む)は約18兆円。
・アメリカはその人口比と同程度の2.5倍。中国はこの10年で飛躍的に伸び日本とほぼ同額。ドイツは8.3兆円。フランス5.3兆円、イギリス4.5兆円、韓国は4.5兆円。インドは2兆円以下。
・日本の研究開発費の約1%に当たる2000億円が競争的研究資金として配分されている。
・競争的研究資金には科研費(2000億円)と戦略創造(500億円)の2つの種類がある。
・科研費(科学研究費補助金)は、サイエンス・コミュニティの自律的運用のための補助金で、20万人いる研究者の3人に一人が受給していると仮定すれば、一人に約300万円ほど補助がある。
・戦略創造(戦略的創造的推進事業)は、国が設定する戦略目標を達成するために研究者の協力を得て達成される事業。運営費交付金として500億円が措置されている。
・ノーベル賞受賞候補者は日本に50名ほどいる。
・日本企業が世界を買い始めている。
・貿易黒字10兆円、海外純資金250兆円、対外所得黒字16兆円
・政府財政赤字800兆円、個人金融資金1500兆円
・娯楽産業100兆円、パチンコ産業30兆円
・ハーバード大学基金3兆円、運用益2000億円以上。年間予算がまかなえる額。
・米は税制優遇措置により個人の寄付が多く、NPO組織が多い。
などなど。

また、30兆円市場のパチンコ産業をひとつの目安として科学やGDPを語るなんて、とてもユニーク。また、世界から見た視点と世代を超えた視点、科学という世界から一歩引いた政治的視点など、そのような時空間を縦横無尽に行き来する話の展開は、非常に刺激的で満足できる内容だった。

そして、最も驚いたことは、瞬間風速的に科学分野で世界一が何人か日本から出ているが、後ろを振り返ると日本人研究者がほとんどいない、という現状だった。科学の世界は、一番でなければ、たとえば特許を取得できなければ、意味のない世界といわれる。層の薄さは致命的だろう。

2009_11_28_5153c
<講演前に通りかかった日本武道館では「こぶくろ」のコンサート>

2009_11_28_5161c
<講演が終わり北の丸から九段下駅へ>

北澤氏には、出版された本の多くを買い取ってでも世に広めたいという覚悟があるらしい。出版社からすれば、発行部数がある程度確保された、意地悪な言い方をすれば、いわば「できレース」ともいえる。しかし、この出版社ではサイエンス本のシリーズ化を宣言している。そんなケチな勘定は料簡が狭いと一笑されるだろう。紙メディアに従事する出版社が低迷する現状で、しかも科学シリーズが他社の後追いともいえる状況にも関わらず、シリーズ化に踏み切った「ディスカヴァー・トゥエンティワン」の決意には敬意を表したい。

また、この出版社に注目すべきことは、取次を通さないで直に書店へ営業をかけ書籍販売を成功させていることだ。取次を通さない出版社はほとんどない。どのような営業活動をすれば成功できるのか、非常に興味がある。社長である干場氏はいち早くtwitterを積極的に活用し、期を見てさりげなく自社の書籍を紹介しているが、このようなトップの姿勢がユニークな出版社を牽引する原動力になっていることは間違いない。

11月28日はさまざまなイベントが重なり、ホントに悩ましい日だった。友人richico嬢のピアノ演奏会あり、瀬尾拡史君のセミナーあり、野球の試合あり、田舎で同窓会あり……。そして、それら友人たちとのイベントをすべてをキャンセルし選択したのが、「科学技術館」でのセミナーだった。科学の世界はまだよく分からないが、分からない部分を洗い出してくれるには非常に役に立つセミナーであり、間違った選択ではなかったようだ。

この講演会は以下のブログでも紹介されている。

DIS+COVERサイエンス創刊発表&記念講演会レポート ●田中
 版元であるディスカヴァー・トゥエンティワンの「社長室ブログ」にアップされた記事。講演の様子を写真入りで簡潔に紹介している。出版社としても新鮮な試みだったことが、以下のメッセージからうかがえる。

これほど多くの理系の方々がディスカヴァーのイベントに集ったのは初めてかもしれません…!

●日本では、未来に希望を抱く若者が少ないこと。
●諸外国と日本に研究開発費予算の差。
●日本の技術・人材が海外流出している現状
など、日本の科学技術が直面している課題をわかりやすく解説。

お話を伺い、いまこそサイエンスへの投資が必要だと実感し、サイエンスにこそ日本の未来への希望があると改めて感じました。

「若だんなの新宿通信」科学技術館でD21の講演会を聞いてきた
 科学誌『イリューム』の元編集長でサイエンス・コミュニケーターの藤田剛氏が語るとき、多くの発言を引用し自己の意見を明確に述べる。藤田氏とは十数年来の友人だが、私が科学の世界に入ってきたことを少なからず驚いているようだ。

私は、今研究成果が上がってきてノーベル賞を続けて取ったり、
ノーベル賞級の発見といわれる研究が北澤さん曰く「50はある」といえるのは、
やはり今から30年前くらいまでの高等教育の成果(今45歳以上)であって、
そのあとの世代が研究者になるには、結構辛い状況を送っているのではないかと心配する。

バブル時の研究者予備軍の社会への流出、
文系と理系で年収が1.5倍違うなどの情報過多、
理系白書に掲載されているような現状、
ポスドク1万人計画がもたらした荒野などなど。

20年後に日本からノーベル賞が出ているかどうかが心配で、
そのためには、いまが重要だという危機感の持ち方が必要だ。

だからこそ、科学とその教育を応援する機運が必要なのだと思う。

ノーベル賞が生きているウチにもらえるほど長生きする世代は、
そろそろ終わりかもしれないわけだし。

■「リケスタ!試作室」DIS+COVERサイエンス記念講演会
 理系スタイリスト(リケスタ)さんの以下のようなご指摘のように、科学技術の話もさることながら、科学技術政策を牽引してこられた北澤氏のお金にまつわるお話は、興味深いものでした。

感嘆したのは、技術よりむしろ日本の経済の話でした。

日本国の抱える膨大な借金、
日本人がもつ膨大な金融資産、
日本の貿易黒字、
この関係がすっきり理解できました。

特に、

借りた金は使わなければならない
後世にお金を残すことはできない

という言葉には、
経済の本質に触れられた気がしました。

「B サイエンスコミュニケーション」科学技術で日本に夢を(DIS+COVERサイエンスシリーズ)(追記あり)
 M322さんが書かれている以下のようなコメントは、ご自身が現在やっておられるサイエンスを事業として展開されている立場を踏まえ、科学の現実と将来をみすえたご意見として非常に参考になった。

 気になった点を2つほど。

1点目は研究開発資金の話。

資金の元となる金の流れをわかりやすく整理し、研究開発費の確保方法を提案されている。

・日本の貿易収支はバブル後も毎年10兆円。対外純資産は`07年には250兆円もある。
・この資金は海外に進出した企業が持つ。
・資金はあっても国内に金が回らない。失業率も上がる、円高も進む・・・
・内需を喚起し外にでていく資金を呼び込む。
・そのためには投資・寄付を呼び込む仕組み(インセンティブ)を用意することが必要。

限られたパイを取り合うのではなく、パイを増やす方向。
ただ金を要求するのではなく、呼び込む仕組みを提案する。

学術側からこうした提案がでてくることに感心した。

まわりまわって時間をかけていずれ企業も恩恵を受ける学術界の研究成果。
だから企業も応援したい、でもそうもいってられない制度の壁。
その壁を壊す動きを、経済産業省や総務省に向けて、学術界が発信していくのも面白い。

事業仕訳対応では科学者コミュニティーの浮世感が目立つ。
いまこそ産業界と結びついた動きが必要なのではないだろうか。


2点目は科学技術ODAという考え方

電気抵抗ゼロの超電導ケーブルの技術を生かして、地下に埋めた超電導ケーブルを地球のあちこちをつないで世界各地の自然エネルギーを効率的に電送する仕組みの話。

関連記事↓

 >
自然エネルギーへの道と3つの超電導地球ネットワーク

こうした技術を日本がイニシアティブを握って開発し、世界に貢献する。
科学技術をつかったODAという手法。
差し出すのは金でもなく血でもない第3の世界貢献。

世界から尊敬される日本の科学技術。

夢を持てない若者に希望を与えることができるかもしれない。

私がまだ科学の世界をよく分かっていないので、以上のブログから多くのメッセージを引用させていただいた。ご参考にされたい。

|

« 贈る悩み、贈る楽しみ | トップページ | 伊東豊雄GAギャラリートーク »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/49806/46938738

この記事へのトラックバック一覧です: DIS+COVERサイエンス創刊発表&記念講演会:

« 贈る悩み、贈る楽しみ | トップページ | 伊東豊雄GAギャラリートーク »