書籍・雑誌

2007年6月30日 (土)

匿名の力

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国立競技場には何体かのモニュメントが置かれていますが、その唐突な存在が笑えるほど面白いんです。このモニュメントは、集まってくる人たちを、きっといつも横目で見ているに違いありません。

その日は小雨混じりの曇天でした。午前7時半、国立競技場に集まったのは三千人ほどのエキストラたち。

「劇場版を撮影するから集まってえ!」

というウェブ上に発せられた号令のもとに集合した『相棒』のファンたちは、それから午後6時まで嬉々として動きまわったのでした。

午前中には終わると思って参加したのだが、結局、お昼のロケ弁食って夕刻まで、国立競技場で過ごすことになりました。そこにいた三千人は、喜んで集まった人たちばかり。三千人分のそんな気持ちのかたまりの中に身を置いていると、いつもとは全く次元の異なる時間と空間が現れた気がします。

こんなことやってる場合じゃないだろ、と思いながらも、匿名であることをよくよく理解した群衆の一人となった経験は、匿名であることの意味を考えるうえで、非常によい機会となりました。たとえば、書評を匿名で論じなければ表現しきれない絶妙な距離感のある評論。あるいは、ガウディの宗教建築物であるサグラダ・ファミリア聖堂に設置される彫刻を、作家性を抑えて初めて表現できる落ち着いた彫像の表情、など、など。

丸一日仕事を棒に振っても代えがたい、貴重な体験でした。

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2007年6月23日 (土)

狐のおかげ

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       <日本橋人形町の神社>

 どうしようか、と右往左往していたところ、

「この本はお読みになりましたか?」

と、いうメールが友人I氏から届いた。

 「ガウディの謎」でガウディ本の紹介を始めたのだが、書評の書き具合がしっくりこないため、更新できないでいた。そんな矢先だったので、たいへん助かった。

 その本のタイトルは、『野蛮な図書目録』(洋泉社、1996)。
 書評集である。書評は1ページに1冊のペースで、なんと百九十九本も収められているではないか。「日刊ゲンダイ」の連載コラムだったため、文字数が原稿用紙2枚分と短い。にもかかわらず、本の深さを十分に味あわせてくれる。珠玉の書評として多くのファンがいたらしい。知らなかった。
 著者は狐(キツネ)。もちろん本名ではない。匿名である。「日刊ゲンダイ」というあまり家庭では読まれない新聞に、書評を匿名で書くというスタンスを、狐氏はよくよくわきまえておられたようだ。

 紹介してもらったこの本だが、すぐには手に入らなかった。ウェブ書店をのぞくと、かろうじて「ユーズド本」として何冊かリストアップされている。到着まで一週間ほどかかる。しかもユーズド本では気が乗らない。それでは、と、書店と古書店に当たってみた。ところが、あつかってない、という。
 それでも図書館がある。日本橋図書館まで足を運ぶ。在庫検索すると京橋図書館に保管していることが分かった。パソコンの端末で簡単に予約完了。京橋図書館から日本橋図書館に転送されるまで遅くとも二日くらい。
 この著者に興味をひかれた私は、その二日が待てなくなり、図書館からの帰り、書店に飛び込んだ。狐氏ご本人が書いている新書だったらきっとあるに違いない、と。

 果たして、以下の2冊を購入し帰宅す。

書評家<狐>の読書遺産』(山村修、ちくま新書、720円)

<狐>が選んだ入門書』(山村修、文春新書、740円)

 こちら二冊を先に読んだ。二冊ともに文字数を限定して書いている。『書評家<狐>の読書遺産』は5ページ、『<狐>が選んだ入門書』は8ページ。飽きる間もなく、次々と読み進んでしまった。『野蛮な図書目録』と比較して5倍から7倍と文字数が多い分、引用文も豊富で展開も広がり、より深く味わえる。また、<狐>という匿名性を取っ払った山村氏からの肉声も聞こえる。

 残念なことだが、山村修氏は昨年、すでに逝かれていた。
 本を深く味わうことが山村氏にとって生きることの中心であった、と評する方もいらっしゃる。まったく同感だ。狐と山村氏の書評を、これからじっくりと読ませてもらおう。
 これからガウディ本を紹介するとき、本を紹介することを主眼に置くのはやめた。まず、本を味わい、ガウディ建築を味わうことから始めようと思う。

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2006年12月30日 (土)

ダメかも

「今度ばかりはダメかも……」

何度もそう思いました。仕事の話で申し訳ないんですが、この二か月ほど、そんな思いに支配され、重苦しい日々が続いていたものですから。


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今日の午後、書籍4冊分のデータが入ったDVDを夢心地でながめ、クリーニング屋に正月用のワイシャツを取りに出ると、家族連れがはしゃぎながらすれ違っていきました。徹夜明けの目に、その眩しさがとても染みました。

そして、夕暮れ。

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2006年12月21日 (木)

あしたはプレゼンだってさ

ひと月ほど前、PHP研究所が発行している『The 21(ざ・にじゅういち)』という若者向けビジネス雑誌の取材を受けました。プレゼンテーションについて特集を組むので、『あしたはプレゼン』の著者として語ってほしい、というのです。

編集者と担当のライターがお二人で来訪され、二時間ほど話をして帰っていかれました。取材に際して、最初、あっしは何を質問されているのかまったく理解できませんでした。「筋肉質のプレゼンテーション」と言われてもねえ。しかたなく、「珈琲でも飲みましょうか」ということに。

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湯を沸かし、珈琲豆をひき、珈琲をいれる。その一連の決まった動作をひとつひとつこなしながら、お二人と話をしていると、質問している側も明確なイメージを持っていないことがわかりました。じゃあ、どうしましょうか。ビジネス最前線で活躍されてる有名な方々や、プレゼンを仕事として教えてらっしゃるプレゼン指南役の方々が語る部分が、今回の雑誌では“売り”なわけです。その援護射撃をするような位置づけの記事。とすれば、何が必要なんでしょうね。一緒に考えていると、具体的な記事の内容が少しずつ決まっていったのでした。プレゼンの内容について語ったのは、三十分ほどだったでしょうか。

その一週間後、雑誌に掲載される記事のゲラがメールで送られてきました。よくまとまっていて、びっくり。すぐにOKの返事をいれました。若い世代のビジネスマンたちは、エレガントに仕事をすることを美徳と考えているらしいのです。そんな彼らに、あっしが直接語りかけることなんてできません。何を彼らが求めているのか、編集者たちはよくピックアップしてくれたものです。来年1月10日発売の2月号に掲載されるそうです。

仕事もプライベートも、求められることを察知するのは容易なこっちゃありませんね。

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2006年12月20日 (水)

ハートに火をつけて

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ここは地下鉄「大手町駅」上りエレベータ前。最終電車の発車時刻が迫っていた。エレベータを全速力で駆け上がっていく女を見た。

今日、12月20日に発表された訃報に愕然とした。17日に女優岸田今日子が逝ったというではないか。妖怪は死なないと思っていた。舞台に立つ岸田さんは妖艶で美しかった。かくありたい、と思った。

なぜか分からないが、ドアーズの「ハートに火をつけて」をCDラックの奥から探し出し、大音響で聴いている。しばらく何もしたくない。もうしばらくほっといてくれ。もう少ししたら、オレも動く階段を全力で駆け上るから…。

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2006年8月24日 (木)

かれ土に水を注げ

眼が覚めたとき、無性にステーキを食べたくなった。ステーキより肉じゃがや牛丼に旨さを感じる人間が、ステーキを食べたいとは、これいかに。わけが分からん。よく分からないのだが、突然、体が欲してしまったのだから仕方ない。

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午後2時前、日本橋人形町『今半』に走った。って、起きてる時間が知れるな(笑)。ランチどき限定のステーキ定食A(\2,600)がねらい目だ。このお値段でシェフが目の前で調理してくれる、非常にお得なメニュー。

「ロース150グラム、レアでお願いします」

片側を軽く焼き、もう片側はサッと鉄板をなでるだけ。150グラムのお肉は薄いため、レアで焼くには職人技が必要になる。200グラム(ステーキ定食B)、250グラム(ステーキ定食C)もあるが、それなりに値がはる。今はちょっと貧乏なので遠慮する。とにかく今日は、肉が薄くてもかまわない。とにかくステーキを食べたい。そう体が欲していたからだ。

で、その結末は…。

ひょっとして、これまで食べたステーキで一番だったかもしれない。やはり、食べたいときが旨いときなのか…。かれ土に注がれた水は、あっという間に吸い込まれる。食べたいときに食べると、知らぬ旨味が味覚に染み渡り、新しい味覚がリストアップされるというのか。

ステーキを堪能したあと、その足で日本橋図書館に向い、仕事に関する資料を読み漁る。この時期、ビジネスマンが多く、閲覧スペースは満杯。仕方なく書庫の床に座り込んで読む。

そういえば、あのカレーも旨かった。先日、無性にフツーのカレーを食べたくなり、相方に頼んで作ってもらったのだが、そのカレーの旨さには驚いた。驚いた自分に驚いた、というべきか。いつも普通に食べている日常の料理なのに、初めて味わうような旨味を感じたからだ。気がつかない不甲斐なさにはあきれるばかり。

求められている知識にも同じことが言えるだろう。それまで気づいていなかった知識欲に、ある日突然、火がつくことがある。気がついたら素直に受け入れるしかない。さて、木曜日は早稲田大学の夏講座でお勉強。全8回の5回目になるが、また新たな味わいが生れることを期待している。

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  <目の前が白むほど暑い夏。早稲田実業の文字も見える>

これから執筆する本にしても同じことが言える。求められることを形にしなければ、と思う。ガウディに関する書籍はまだ企画書やサンプルを書いている段階だが、パソコンに関する書籍は締め切りが迫っている。どちらも大切な仕事に変わりない。

枯(か)れた生物に水をそそげ
涸(か)れた土地に水をそそげ

かれ土に水を注げ
君にかれ土はあるか
注ぐ水はあるか

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2006年4月27日 (木)

『あしたはプレゼン』

■ちょっと宣伝っぽい話…。
■昨日(水曜日)、『あしたはプレゼン』の刷本が出版社であるローカスより届けられた。

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■真っ赤な表紙に蛭子能収氏のイラストが効いている。一面真っ赤な表紙というと、ずっと前に翻訳した書籍『くたばれ! チープなウェブサイト』を思い出す。ブックデザイナーに感謝したい。
■「プレゼン庶民のための」というコピーも泣かせる。本に巻かれている帯を初めて見たのだが、そのコピーにいたく感心した。

 明日を乗り切れ!
 カリスマの自慢話は不要!

 目前のプレゼンをこなすテクニックから
 プレゼン観が変わる深い知識まで

 はじめてでも、時間がなくても
 プレゼンはなんとかなる

■このコピーは書籍の意図を的確に言い当てている。編集者に感謝したい。
■けっこう中身は濃いはずだが、コピーに書かれている内容がちゃんと実現できているかどうかは分からない。ちょっと手をかけすぎたかもしれない。欲張り過ぎて論旨を複雑にしてしまったところがあるからだ。とはいえ、うちのスタッフの協力を得てつくられた自信作のひとつであることは事実だ。

■刷本がこのタイミングで著者に届くということは、この書籍が書店に並ぶのは連休明けあたりからだろう。

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2006年4月20日 (木)

仰臥漫録

■水曜日はむっとするほど暖かい日だった。夜には雨となる。

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<日本橋人形町 都営浅草線人形町駅近く>
 GR Digital F/2.8 1/90秒 ISO-64

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<人形町交差点。古いビルがまだ健在>
 GR Digital F/3.2 1/330秒 ISO-64 露出補正-0.3

■人は変わるらしい。旅の企画を進めているN嬢は、キーマンとなる人物の対応が劇的に良くなって嬉しい、と、電話の向こうで声を弾ませていた。活躍できる範囲に仕事の内容を限定したことが功を奏したらしい。

■昼前に連載の原稿をメールにて送付す。午睡して目が覚めると「レイアウトに回しておいたよ」と、編集者I氏からメールが届いていた。添付されていた文書ファイルを開くと、見事に修正された文章が書かれてあった。
■自分で書いておきながら、修正された文章を読みながら、「そうそう、そうなのよ。オレの言いたかったことはそういうことなのよ」と、ひざを打つ筆者。オイオイ。
■思い入れが強すぎる文章だったようだ。懐深い編集者の文章力に感謝したい。お礼のメールを入れておいた。

■今日も電話が多い日だった。書籍とカレンダーの企画はそれぞれの担当者と電話で話ができ、今のところ順調のようだ。

■夕刻、友人のW氏来訪。とんかつ『一(はじめ)』にて揚げ物をつつきながら馬鹿話。『仰臥漫録(おうがぎょうがまんろく)』(正岡子規)で盛り上がる。若干三十五歳で逝った文人の偉大さをあらためて知る。仕事の話も少しした気がするが、なぜか、合気道の道場を紹介された。

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2006年2月 8日 (水)

会議中のメール

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■「色校は問題なく、無事入稿しましたよ」
会議中にそんなメールが入った。これで、執筆した書籍「あしたはプレゼン」は印刷に回る。あとは刷り上るのを待つばかりだ。
■久しぶりに雑誌に関わることになり、年が明けてよく人と会う。本誌の連載と別冊のムックが同時進行しているため、編集者やデザイナーとの打ち合わせが頻発している。
■今日は社屋を白金高輪に移した出版社で会議。12階の会議室は展望がよく、西側の窓からは遠くに富士山がくっきりと見える。編集者がスイッチを押すと富士山は消え、会議が始まった。携帯電話がブルッたのは、そのときだった。

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<GR Digital ISO-64 1/23sec トリミング>
<GR Digital ISO-64 1/12sec 日光モードで撮影した写真>
<暖色フィルターなどで色調補正。見た目のイメージに近い>

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